イヌイット語で雪を表す言葉は何種類?問題を確かめた話

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イヌイットの人にとって、雪は身近な存在だから、イヌイット語で雪を表す単語は何種類もある。という話を聞いたことはありませんか。

かたや、そんなものはウソ、という話も聞こえてきます。


黒田龍之助氏著「はじめての言語学」に、このまことしやかな噂が広まった原因について、書かれています。

 イヌイット語で雪を表す語については、ウォーフ(池上嘉彦・訳)『言語・思考・現実』(講談社学術文庫)の159~160ページにも紹介されている。

 多くの人がこのあたりから引用するので、イヌイット語の雪の話が有名になったのだと思う。

とあります。

実際に上記のウォーフの著書(税別1100円)を買って、記載内容を確かめてみました。

確かに、159ページ後半部分に、

 降る雪、どろどろの雪、その他さまざまの雪は、(中略)イヌイットの人たちはそれら一つ一つに違った単語を使うし、それ以外のさまざまな雪についても同様である。

とあります。
この文章を読む限り、
1.降る雪、2.どろどろの雪、3.その他さまざまな雪、まではイヌイットは単語を使い分けているように読めますし、3.の、さまざまな雪を一つの語で表しているとも考えづらいので、イヌイット語で雪を表す単語は4種類以上の語があるのでは、と読者に想像させます。


ところが、少し戻った143ページに示された図2では

「英語は一語(snow)、エスキモー語(※イヌイット語)は3語」との説明が。


この図では、なぜか3語と断定されており、前後のページにこの図についての説明がないため、これが後に混乱を招く原因の一つになったと思われます。

ウォーフはこの著書の中で、イヌイット語について特別熱心に言及しているわけではなく、ほかにも、コーピ語、ショーニー語など、英語とは言語構造が全く異なる言語を次々例示として出しています。


ところで、
冒頭にご紹介した黒田氏が著書の中で、どんな言語でも、多少回りくどいかもしれないが、どんな説明でも必ずできる、と書かれています。

個人的には、とても感銘を受けました。

とかく言語の話になると、色の名前を何種類も使い分けている〇〇人の心は繊細だ、とか、〇〇人は大ざっぱだから、言葉の使い分けもしない、とか、それらしいけど怪しい議論に入り込んでしまいがちです。

言語にまつわる眉唾な話が聞こえてきたら、まずは出所を確かめてみた方がいいかもしれませんね。